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いかにも“大人の男”って感じの雰囲気で、心地よい低い声が怒ればかなり怖いことはすぐに分かる。
だけど、喋り方も表情も比較的柔らかく、男女問わず生徒から人気が出そうだ。
「この後の全校集会でもう一度自己紹介すっから、よく聞いとけよー」
『はい!』と女子たちはあちこちで叫び始める。
「それじゃ、まずは出欠をとる。名前の呼び方が間違ってたら言ってくれ。早く全員の名前と顔を覚えたいからな」
名簿を取り出して名前を呼び始めた担任をよそに、私は前の担任のことを考えていた。
どこのクラスになったんだろう……。
『神崎、たぶん俺はお前が卒業するまでお前の担任だろうから。覚悟しておけよ』
そう言っていたはずなのに、私の担任じゃなくなっているなんて、あんの嘘つきじじい。
まだ一度も授業中に居眠りしている私にチョークが飛んできてないんだけど。
あれ、一度やってもらいたかったんだけど。
い、いや別に私はMじゃないし、っていうかむしろドSだけど!!
「……!…き!……神崎悠!!」
「はっ!」
あ、忘れてた。
「神崎悠……は、お前か?」
「イエス。すいません、ちょっと宇宙を飛んでいました」
「そうか。何か発見はあったのか?」
「はい、宇宙には飛べないことが分かりました」
「ははっ、分かってよかったな」
どっと教室内に沸き起こる笑いに、私もニカッと笑って見せた。
「……じゃ、次行くぞ」
また生徒の名前を呼び始めた担任をよそに、私も再び宇宙に飛びに行く。
……たぶん、前の担任は自ら私の担任を受け持つのを辞退したんだと思う。
私がフランスから帰ってきて初めて登校した日、初めて担任の涙を見た。
私が危険な目にあったのは自分のせいだ、とバカなことを勝手に思い込んでいて。
いくら違います、と言っても首を振るばかり。
ようやく泣き止んで心配かけたことと迷惑をかけたことを謝れば。
『無事に帰って来てくれて……よかった…』
私の肩を抱いて、涙ぐみながらそう呟いた。
まさか、担任にもこんなに想われていたなんて思っていなかったからちょっとビックリしたけど、とても嬉しかったな。
だから前の担任が担任じゃなかったことが、少しだけショックだった。
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