343人が本棚に入れています
本棚に追加
愛花には昼休みに私が会いに行く、とその子に伝えてもらって。
「ゆ、悠……昨日のこと、なんだけど」
「その話ならできないよ。噂を好きなように解釈してくれて構わないから」
「あ……うん。ごめん」
「いやいや、陽斗は何も悪くないから謝んないで。今日の私は静かにしてるよ」
おずおずと隣の席に着いた陽斗に、機械的な微笑みを向けた。
遠くからじっと私を見る人物の正体は、昨日のうちに今日は一切私に近付くなと釘を刺しておいた空雅。
言いつけどおり、愛花にも何も話していないし、大人しくしてくれている。
「神崎、お前大丈夫か?」
「この私が大丈夫じゃなかったことがあった?」
「……いや、でも」
「別に私は何言われてもいいよ。それに悪口じゃないんだから、尚更ね」
「そうだけど、さ」
「ありがとね、大高」
私を心配してくれる人にまで見え透いた愛想笑いをするのは心苦しいけど。
今ここでボロを出せば、空雅から煌の耳に話が入ってしまう。
いわゆる空雅は、私の監視役にされているわけだ。
そしていつにもまして、取り澄ましたような涼しい顔で教室に入ってきた風舞先生。
昨日の帰りのHRでは一切、私のほうを見なかっただけに、今日は何言われてもおかしくない。
生徒会長である私が、見知らぬ人を校舎内に入れ、生徒たちを騒がせた。
これは私の立場として決して良くは思われないし、指導があると考えた方がいいかも。
そんなことを考えている間に朝のHRが終わり、呼び出されるんじゃないか、と構えたけど。
風舞先生は、昨日と同様に一切私のほうを見ずに教室を出て行った。
……うわぁ、余計に怖いんだけど。
胃を固く締め付けるような不安の念を感じながら、早く今日が終わらないかなぁ、と。
窓の外にある、灰色の雲が厚く夕暮れ時のような朝の空を、眺めた。
.
最初のコメントを投稿しよう!