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やはり昨日の厚い灰色の雲は、大きく揺れるカーテンのような雨景色を誘った。
「お待たせしました」
I駅に着くと、すでに見覚えのある車が止められていて、足早に向かうと。
「やぁ、My Princess!さぁ乗って乗って」
「失礼します」
助手席のドアを開けて、マイケルジャクソンの曲が流れる車に乗り込んだ。
「今日も雨にも滴るいい女の言葉通り、美しいね。My Princess」
「言葉で相手の心を愛撫しようとしてきたんですね。残念ですが、私には無駄です」
「Oh!そんなんじゃないさ。僕はいつも心からの言葉しか言わないよ」
「そういうの、美辞麗句って言うんですよ」
「What?よく分からないね」
「だと思ったから使ったんです」
相変わらず綺麗な銀髪は後ろで1本に束ねられていて、グレーの小さなストライプ柄のカットソーに、ワンボタンのキナリ七分袖ジャケット、ジーンズというキレイな私服。
もっと派手に着飾ってくるのかと思ったけど、意外と普通でよかった。
「はははっ!いやぁ、君は本当におもしろいね。僕、こんな女性に初めて出逢ったよ」
「おしゃべりは結構ですが、安全運転でお願いします」
「Sure!大事な大事なMy Princessが隣にいるんだからね」
「だからそのマイプリンセスはやめてくださいって前にも言いましたよね?」
「そうだったっけ?」
「……なるほど、人の話も聞けないと」
「No!怒らないでおくれ!分かった分かった、でもどうしてMy Princessは嫌なんだい?どんな女性もこの呼び方はすごく喜んでいたのに」
「だからですよ。誰にでも呼ぶような呼び方で私を呼ばないで下さい。人にはきちんと名前があります」
「確かにそうだね。分かった、君は僕の特別になりたいんだね!」
「ボジティブ解釈ご苦労様です」
全く、空雅を大人のオシャレな男にした人と話してる気分だよ。
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