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ニコニコと花を散らしながら微笑む遼さんに、カフェの店員や他のお客さんからの視線が熱い。
見知らぬ人からの視線に慣れている私でよかったとつくづく思う。
「遼さんは煙草、吸わないんですね」
「どうしてそう思うんだい?」
「車の中、匂いがしなかったから。煙草の吸い殻も触った跡がなかった」
「そうだね、吸わないよ」
「お酒も飲まないんですか?」
「ワインは好きだったんだけどね。女性にかけられてしまってから、ちょっと怖くなったよ」
「遼さんにでもそんなことする女性がいるんですね」
「本当、Ladyは怖いよ」
やっぱり、この人………。
「イギリスの女性が怖くなったから沖縄に帰って来たんですか?」
「はは、それも一理あるかもね」
「初めて会った時、私に髪のモデルをしてほしいと言っていましたが、それは何のためですか?」
「いや、あれは君を連れ出すための口実さ。もう美容師を続ける気はないから」
「……美容師を続ける気はない?どうして?」
「飽きたんだよ。僕は常に新鮮さと輝きを求めている。美容師もイギリスの女性にも飽きてしまったのさ」
冷ややかな能面のような、ぞっとするような冷笑的な薄笑い。
普通に見ただけでは誰も気づかないような違いにも、私にはすぐに分かった。
「そうですか。私には関係のないことだし興味もないのでどうでもいいですが。私が一番言いたいことは、煌の心を弄ばないで下さいということです」
「君は煌のことをどう思っているんだい?煌の気持ちには気付いているだろう?」
「はい。でも煌は本当に大切な人です。だから傷つけるようなことをするのなら、私はあなたを傷つけます」
「………なるほど、その強さが煌を惹きつけたんだね」
ふいに感じた、遼さんの寂しさ。
「遼さん、お母さんには会わないんですか?」
「会う必要がないよ。僕は親不孝者だからね」
「でも今会わなければ、後悔するんじゃないですか?」
「どういうことだい?」
私は今までの話の流れで勝手に立てた推測を結論付けた。
「あなたは、病気なんでしょう?」
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