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死の淵に立たされている人を前に、冷酷なことを考えている私をひどい、と思う人は多いと思います。
ですが、その理由は後程分かります。
私は冷酷でもなんでもなく、冷静なだけなのです。
「このままでいいはずがないですから。きちんと、煌と話し合うべきです。ってか、話してください」
「どうして君は、ここまでするんだい?」
「どうしてでしょうね」
自分でもよく分からない。
「煌のことが、好きだからかい?」
「それももちろんあるんでしょうけど、何よりも遼さん。あなたのその笑顔です」
「僕の笑顔?」
「はい。あなたの綺麗な笑顔の中には苦い色がある。すべて薄っぺらい適当な関係で流して、絶対に自分の本来の姿を見せようとしない」
「僕と会って2度目でそんなことが分かるのかい?」
「分かりますよ。初対面で分かりました。表情的には微笑んでいても、心は全然笑っていない」
「………」
しとしとと優しく降っていた雨は、いつの間にか、バリバリと油紙を破くような激しい雨音に変わっていた。
「寂しかったんじゃないですか?誰も自分の心の奥底の想いに気付いてくれなくて。だから、血の繋がっている唯一の家族だけにはもしかしたら分かってもらえると思った」
すべて、私の思い込みかもしれないけど。
「でもいざ、目の前にしてみると怖くなった。拒否されたら、何も気付いてくれなかったら、と。だからわざと、違う意味で気を引くようなことをしたんですよね」
「………君は魔法使いか何か?こんなに怖いと思った人はいないよ」
「そうですね。私もこの世で一番怖いのは自分だと思ってます」
「ははっ、煌があんなふうになったのもよく分かる」
やっぱり遼さんは、煌のことをすごく大切に想っている。
唯一の弟だし、どんなに離れていても家族っていうのは気になるものなんだろうな。
「でも煌は……僕を恨んでいるだろう」
「どうしてそう思うんですか?」
「家の貯金をほぼ使ってイギリスに留学したのに、家には一切連絡もせずにお金すら返さなかった。母さんが苦労していたのも知っていたのに」
「どうして……」
「本当にバカだったよ。この歳になって自分がどれだけひどいことをしていたのか気付くなんて」
何だ、きちんと反省はしているんだ。
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