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常識知らずでバカで最低な人間だけど、良心が僅かながらにでもあってよかった。
そりゃ、これでも一応煌のお兄さんだしね。
「煌とお母さんに申し訳なく思っているなら、自分の病気のことを話して、今までのことをしっかり話して下さい」
いくらか冴えない顔を上げて、でもまたすぐに視線を机に落とす。
諦めの表情が染みついているけど、もうすぐ雨も上がるはずだ。
「大丈夫ですよ、遼さん」
なだめるような笑顔を浮かべて、グリーンの瞳を見つめる。
「虹を見るためには多少の雨は我慢しなくてはならないです。だから、あともう少し」
ゆっくりと、窓の外に視線を移せば。
「ほら、外の雨は上がりました」
陽が差してきて、葉末の雫がダイヤモンドのように光っている。
「自分を晴れにも雨にもするのは、自分自身です」
「…っ……そんな簡単に、言わないでくれ…!僕はずっと孤独の中にいたんだ!」
眉の間を微かに曇らした遼さんに、変わらない笑顔で微笑む。
「自分のことしか考えないから、孤独なんですよ。もっと周りを見て下さい。もっと周りを知って下さい。あなたの周りにはあなたが思っている以上に素敵なもので溢れています」
こんなに、華やかなオーラを持っているのに、人を惹きつける魅力があるのに、もったいない。
この人は、自分で自分のことがしっかり分かっていないだけなんだ。
「このまま何も伝えずに、この世から去るつもりですか?そんなんじゃ、死んでも死にきれない」
ま、死なないと思うけどね。
「遼さん、もう逃げるのは終わりにしましょう」
「……っ…」
瞳の中に驚愕と不安が見え隠れしている。
でもそれは一瞬で、一度伏せられた瞼が持ち上がったときの瞳には。
決意の色が、映っていた。
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