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やっと、心からの笑顔を見せてくれた遼さんに、私も嬉しくて顔をほころばせた。
「………そうか」
「え?」
「いや、なんでもないよ。ありがとう、悠ちゃん」
一瞬、じっと私を見つめたままぼそっと呟いた遼さんに首を傾げると、すぐに首を横に振った。
「それじゃ、行こうか」
「行くってどこに?」
「もちろん、煌のところにさ」
「……はい!」
得意気にウインクをしながら席を立ちあがった遼さんに、私も残っていたグァバジュースを飲み干して。
来た時とは別人のような背中をした遼さんの後を、追った。
カフェを出れば、さっきまでの雨が嘘のように抜けるような青さに澄み切る空。
「晴れましたね!」
「Yes……あっ!」
空に向かって思いっきり背伸びをした後、遼さんを振り返れば。
地面を見て何かを見つけたらしい。
「どうしたんですか?」
「……君の言った通りだ。僕の周りには僕が思っている以上に素敵なもので溢れている」
そう、優しい表情で見つめる遼さんの指に挟まれているそれを見て。
「よく見つけられましたね!」
「自分でもビックリだよ。探そうと思って探すときは絶対に見つからないのに、こんなときに見つけられるなんて。初めてかもしれない」
「今の遼さん、素敵です」
ふふ、と微笑みながら本音を言えば。
「………これは、やられたね」
パッと顔を背けて、小さく呟いた遼さんの表情を私は知らない。
「どうしたんですか?」
「No!今の僕の顔は見せないよ!」
「え~?何でですか?気になります!」
「絶対に見せないから!」
そう言って逃げるようにして車の中に乗り込んだ遼さん。
私も心地いいため息を吐いて、カフェを後にした。
あの時の遼さんの表情を、唯一知っているのは。
四葉のクローバー、だけ。
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