343人が本棚に入れています
本棚に追加
バタン、と閉じられた病室のドアの音が暗い穴の底から響いてくるようで。
きっと隣のお2人には、医者の言葉が耳の底でエコーがかかったような響きでこだましていることだろう。
「……あ、はは」
気まずそうに笑いを零したのは、遼さん。
「なぁ、悠」
「んー?」
「お前は、知ってたんだな?」
「うん、だって私も肺炎にかかったことあるもん。本当に死ぬような肺炎だったら、息をするのも辛くて大変なはずだから」
「……分かってて、仕掛けたのか」
「あはっ!まぁ結果よかったじゃん!お互いしっかり話せて、遼さんも死ななくて!」
嫌な汗をかきながら開き直ってみると、煌はげんなりと、遼さんはきょとんとしていた。
「Oh,may god!ひどいよ、悠ちゃん!」
「ごめんなさーい!だって、遼さんはイギリスの病院で薬の説明もしっかり聞いていなかっただろうなと思って。あれ、たぶんただの咳止め薬ですよ」
「………Don't be silly」
「冗談じゃないです。っていうか、気付かない方がバカなんですって」
「そ、そんなに言わなくても……」
「あははっ!さ、薬だけもらって帰りましょう」
まだ現実を受け入れきれていない2人を残して、私はカウンターへと向かった。
病院の外に出て、やっと2人がまともに話してくれたことが嬉しくて。
思いっきり息を吸えば、清冽な空気の流れの中に体を浸しているように、爽やかな風が入り込んできた。
やっと出てきた2人を見ると、正反対の表情をしている。
「煌はどうしてそんなに不機嫌なの?」
「……誰のせいだと思ってるの」
「騙してごめんって。でも肺炎だったのは本当だし、大きくなくてよかったじゃん」
「違う、そんなことはどうでもいい」
どうでもいいって、また切り替えが早い。
「じゃぁどうして怒ってるの?」
「………」
「悠ちゃん、これは僕と煌の兄弟の問題だから気にしないで?さぁ、行こう」
さりげなく、私の肩に手を回した遼さんに促されて足を前に進めようとしたけれど。
「悠に気安く触るな」
と、いつの間にか、煌の腕の中にいた。
.
最初のコメントを投稿しよう!