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だいぶ傾いた陽が影法師を細長く斜めに地に映す。
「兄さんはもう、悠に興味はないと思ってる?」
「え、当たり前でしょ?もう煌を苦しめる気なんてないんだから」
「じゃぁ俺は、どうしてあんなことを言われたんだろうな」
「あんなこと?」
寄りかかっていた玄関から身体を離して、ゆっくり私に近寄ってくる。
後ずさることもせずに、ただじっと煌の足取りを見つめていた。
「昨日、悠が先に病院を出たときに言われたんだよ」
ぐ、と爪が皮膚に食い込むほど強く握りしめられた両腕。
目の前には、噛みつきそうな激しい表情の煌。
「『初めて、女性の笑顔にドキッとした』って」
………あ?
えーっと、そんなに真剣な表情をして言われても、言っていることと表情がイコールで結ばれないと思うのは、私だけ?
私の感覚がやっぱりおかしい、だけ?
「ほら……やっぱりその顔。全然分かってない」
「全く分からないんですけど。その言葉のどこに怒る要素があるんでしょうか」
え、ちょ、何その大胆にほとんど冷却しきった顔つきは。
「やっぱり何にも分かってない!」
「だから、分かるように説明してってば」
「俺が言いたいのは!!」
声を荒立てた煌の言葉の先に待っていたのは。
「どうして兄さんに笑顔なんか見せたんだよってこと!!」
ますます意味が分からなくなっただけでした。
つまり、煌が怒っていたのは私が遼さんに私の笑顔を見せたってことで。
「……どうして見せちゃダメなの?」
「悠の笑顔であの女たらしが初めて心を奪われたからだよ!!!」
と、煌は言ってしまった後にハッとした表情で舌打ちをした。
あぁ………私はまた、めんどくさいことを起こしてしまったということか。
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