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おうおう、こんな近くでこんなイケメンを拝めるとは、全く嬉しくないね。
いくらか切れ上がった目に、高い上品そうな鼻筋、描いたような美しい眉、形のいい唇。
綺麗に手入れされてある黒々とした顎鬚を、こんなに近くで見れることはもうないかもしれない。
「………何で、黙ってる?」
「先生が黙ってるから」
「この後、なにされると思う?」
「顎から手を離して私の鼻を思いっきりつまむか、飛んでくるチョークより痛いデコピンをくらわせるか、どっちか」
「神崎、お前はやっぱり頭がいいな」
「バカだと常に言われています」
「バカだけど頭が良いんだよ。こんな生徒、初めてだ」
「対してあまり生徒持ったことないでしょ」
「………言うなぁ」
はは、と白く笑いながら私から手を離し、席に座った先生。
「あー……やべぇな…」
「何がですか?」
「こっちの話」
イスに座った直後、天井を見上げながらぼやくように呟いたけど、理由は教えてもらえなかった。
「お前、俺が今した行動をどう捉える?」
「何とも思わないですね。これ以上のことを教師にされた経験は何度かあるので」
「……おい、それは本当か?」
「はい。別に綺麗に片付けたのでどうにもならなかったから大丈夫でしたけど。私、こういう免疫は強いみたいです」
ふふふと乾いた唇から隙間風の漏れるような笑い方をすると、風舞先生の目つきが変わった。
切るような鋭い目で、眉に深いシワを寄せる。
「ふっ……俺も、今までの奴らと同じってことか」
「いえ、それは違いますね」
「どうしてだ?」
「風舞先生は簡単に女子に手を出せないでしょ?3年も大切にしていた彼女にフラれたばかりなんだし?」
「……おいおい、今その話掘り返すかよー」
「こんなときじゃないと、先生は言ってくれないでしょ?」
「それは俺のことを知りたいってことか?」
「もちろんです」
「………」
にっこりとほほ笑めば、口角を薄く上げて瞼を伏せた。
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