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「ありがとうございます」
そう言って彼はティッシュを受け取り、鼻をかみ始めた。
「いや、それだけじゃなくてさ」
俺もティッシュを一枚引き出し、目元を中心に彼の顔を拭う。
「おれ、泣いてましたか?」
「泣いてたから、そんなに鼻が出てんじゃないのか?」
「……そうですね」
「何でなのか知んないけど、とりあえずこれでも飲んどけよ。元気出るぜ?」
さっき買ったドリンクを差し出す。
「……確かに出そうですけれども」
こういう場面で差し出すのはなんか不似合いな物ですねって、彼はちょっと笑った。
「……何も聞かないんですか」
ドリンクを飲み干した彼はそう聞いてきた。
お人よしだからって、そこまで首突っ込むとは限らない。
彼に声をかけたのは、俺の見える所に泣いている人がいるのを、ほっとけなかった。
ただそれだけなんだ。
別に、泣いていた理由まで聞くつもりは無い。
「俺からは聞かないけど、何か聞いて欲しい事、あるの?」
そう聞くと、彼は微妙な顔で俯いた。
「俺、相談に乗るのは得意じゃないけど、吐き出すには格好の相手なんだ」
「……なんでですか?」
「何聞いても、すぐに忘れるから」
彼は不思議そうな顔をした。
……むしろ不審げか?
そんな表情を気にせずに、俺は続ける。
「だから誰かに聞いて欲しいんなら、言ってみろよ。
大丈夫、明日には全部忘れてるから」
やっぱり彼は不審そうにしていたけれど、
聞かなかった事にするとかそんな感じに流すんだろうと納得したのか、
口を開き、愚痴を吐き出し始めた。
どうせ通りすがりの他人なんだし、気楽に吐き出せばいいよ。
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