3.驚きの恋愛事情

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一週間、おいらは塾の数学のことばかり考えていた。 弥生はいつも、一人で学校に行き、一人で学校から帰る。 クラブがあるときだけは同じ部員と一緒に帰る。 塾の数学の授業がある日は、たまたま委員会があった。 「間に合うのか?」 おいらが門を出たところでそっと聞くと、 「七時半からだもん。充分よ」 なんて、うれしそうに言われるとやっぱり悔しい。 「勝見!」 声がして、おいらは鞄に潜り込んで、そっと顔だけ覗かせた。 声の主は生徒会副会長の市原だった。 市原は、ずっと走ってきたらしく息を切らせていた。 「一人?」 「うん」 「じゃあ一緒に帰ろう。東方面、だろ?」 「うん」 市原と弥生は肩を並べて歩き始めた。 市原は秋山よりちょっと背が高いみたいだ。 弥生との身長差が大きい。 弥生は市原のことをこう言っていた。 「生徒会総務をずっとやってるから全校生徒や先生が、市原君のこと知ってるって感じ。 クラブの帰りに、色々な人から挨拶されるもん。 しかもイケメンでしょ。 運動もよくできるし頭もいいし、落ち着いてるし、もてるみたい」 市原は、さっきの委員会のことをちょっとしゃべったあと、 「勝見って、いっつも一人でいるんだな。どうして?」 弥生は言葉に詰まってうつむいた。 そうすると、弥生の肩にかかるかかからないかのさらさらのおかっぱの髪が顔を隠すんだ。 市原は、仕方なく話を換えた。 「今度の日曜空いてない?」 「えっ」 こ、こ、これは?!!! おいらはあせった!! どうしたらいい!!!? 「いっちはら!」 吉田ああ~。おまえは今日の救いの神だあ~。 市原は、顔をしかめたけど弥生は明かにほっとしたような顔をした。 おいらだってほっとしたさ。 「おっと、勝見と二人?」 「選挙に関する委員会だったんだよ」 「選挙と言えばまたおまえ立候補するんだろ?」 「まあな。そのときはポスターをよろしく」 市原と違って吉田はまったく弥生をそういう目で見ていないようで、 市原が電車を降りてからもあんまり弥生としゃべらず、 弥生が降りるときに笑って片手を振るだけだった。 「吉田君って、何考えてるのかわからないけど、好きよ」 市原との気まずい空間から抜け出させてくれた感謝をこめて弥生はおいらにそう告げた。
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