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1.雑用だらけの文化祭
弥生のことをもっと知るために、おいらは毎日学校について行った。
弥生には、友だちがいない。
休み時間も、本を読んでいるか、窓の外を眺めている。
昼休みになっても教室でお弁当を食べずに中庭で一人で食べる。
根暗?!
話しかけられれば答える。
だけど決して自分から声をかけようとしない。
「どうしてだよ」って聞いたら、笑ってごまかされた。
おいらには理解できない。
なんかそれ以上は聞きにくい雰囲気で、その会話はそれで終わり。
おいらと弥生の会話は結構そんなふうに終わることも多かった。
最初のうちは、弥生と一緒に学校に行って授業にも出ていたけれど、最近はあきてきて学校を探検する。
食堂とか、職員室とか、誰もいないトイレとかを見る。
今は弥生のことを見ている。
おいらの定位置は黒板の横の掃除用具入れの上。
ここからだったら、教室の誰からも見つからない。
いつものように本を読んでいる弥生。
今日の本は、昨日買ったばかりの小説。
本に夢中になっている弥生の横に、いつの間にか、二人の女が立っていた。
「勝見さん、文化祭のとき暇?」
「え?」
女に声をかけられて、弥生は本から顔を上げた。
弥生が困ったような顔をしているのが見える。
だけどそれを口には出さないから、女は何か仕事を押し付けようとしていた。
いらいらしてきた。
口をはさみたい。
すぐに飛び出しそうになった。
だけど、そんな時、
「勝見は駄目だぜ」
勝見の机の前で男が女に言った。
こいつのコトはおいらも知っている。
弥生が所属する写真部の奴なんだ。
「勝見は部活で忙しいんだ。あんまりめんどうなことばかり押し付けるなよ。
学級委員まで押し付けてさ」
「それは今関係ないじゃない。
それに、それは勝見さんが推薦されて引き受けてくれるって言ったのよ」
「全員やりたくないからって、文句言わない勝見にやらせたんだろ」
弥生のことを完全に無視して二人は言い争っている。
弥生は一層困った顔をした。
もしおいらがもっとまじめに魔法の勉強していたら、
今、このときに魔法で奴らの気を他に反らすことができたのに…。
くやしい。弥生をあんな顔にさせてしまって。
弥生も何か言えばいいのに。
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