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「えっ?」
医師の言葉が未来の心を突き刺した。動悸が高鳴る。心臓を握り締められたかのような苦しみが彼を襲った。
「ハハッ、何言ってんですか先生? 麻矢は生きてるじゃないですか? 心臓だってほら! ちゃんと動いてる」
最愛の人の死を受け入れたくない。未来のその思いは強く、彼は心音を計る機器に指を指した。
しかし……。
「いいえ……。彼女は死んでいます。脳死です」
宣告されたのは残酷な結果だった。
脳死。それは文字通り脳の機能が死んでしまうこと。
大脳、小脳、脳幹と言った脳の機能は人間が生きていくうえで必要不可欠の存在。
しかし、麻矢の脳は全ての機能が死んでしまった。心臓が動いていても自発呼吸が出来ない。
呼吸器を外してしまえば心臓はいずれ止まってしまうのだ。
「麻矢さんの心臓は確かに動いています。しかし脳が死んだ以上意識が戻ることはありません」
医師は念を圧すように未来に彼女の死を告げた。脳死とは事実上の死であり、現在の医学では治すことは出来ないのだ。
「……嘘……ですよね?」
力無い未来の声が医師に尋ねる。しかし医師はだんまりとしたまま首を横に振るだけだった。
「嘘だ……。麻矢は生きてる! 生きてるんですよ!」
未来はそう叫ぶとベッドに眠る麻矢の手を強く握り締めた。
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