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「気持ちは痛いほど分かる。俺だって、咲ちゃんとは知り合いだったからな。貴志が現実受け止めきれないことだって、初めは否定しないでやろうと思ったんだ。お前は1年目の追悼式にも出なかっただろ。それは、仕方がないことだと思って何も言わなかったんだ。でも、もう二年だ。あれから二年も経ったんだよ。行ってやれよ。お前はあの日から咲ちゃんを無視し続けてるんだ。会いに行けって……」
せき止められていた感情が全て流れるように、神崎はまくし立てて話していた。
半分は言っていることが分かる。
しかし咲子のことは何を言っているのか分からなかった。
「咲子は、居るだろ……」
「俺が悪かったんだ。お前が大変になるかと思って、家事用のアンドロイドをやったから、こんなことになったんだろ?」
「アンドロイド……」
「そうだ。まさか、お前の咲ちゃんとの記憶まで、AIに移植するとは思わなかったんだ……」
「なぁ……咲子は……?」
「あれはどう見たって、咲ちゃんじゃないだろ……!」
後頭部をガツンと殴られたような衝撃が走る。
真っ直ぐ立っていられなくなった。
神崎が心配して声をかけているようだが、何を言っているかは分からない。
頭痛はするが、頭の中だけは冷静に物事を処理しようと努めていた。
人の思い込みとは恐ろしいもので、いくらだって幻を作ることが出来る。
俺は、機械剥き出しのアンドロイドを咲子だと思っていた。
しかし思わざるを得なかった。
俺にとって現実はあまりにも残酷だった。
咲子は、2年前に亡くなったのだ。
神崎が教えてくれた道を辿りながら、式場へ向かった。
自宅から車を走らせて、二時間の場所にあった。
もうすぐ、夕暮れになりそうな気配だった。
現地に着くと、真っ先に大きな石碑とたくさんの花が見えた。
そういえば、何も考えずに出てきたから花を持っていくのを忘れてしまっていた。
式は午前中にあったにも関わらず、人は予想よりも多く居た。
ざっと見た所30数人居て、きっと式中は更に多くの人が集まったのだろう。
真っ直ぐに石碑に向かって歩き、それを見上げた。
不思議と、涙は出なかった。
現実味が無いのかもしれない。
石碑の下にある銀色のプレートには、たくさんの人名が彫られていた。
おそらく、ここに咲子の名前があるのだろう。名前を探して、祈ろうと思った。
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