さよならを言う前に

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プレートは横に長く、びっしりと名前が記されていた。それだけ多くの犠牲者がいたことを痛感する。 少し歩いた先に、プレートに縋りついて泣いている若い女性が居た。同い年ぐらいに見えて、この人も大切な人を亡くしたのだろうと思った。 事故のことを思い出す。こうして石碑が作られたのも、誰一人として戻ってこなかったからだった。 骨も、遺留品も戻ってこなかった。 だから墓を建てようにも、そこに誰もいないものを作ることになる。 慰霊のために作られた石碑は、海が良く見える開けた土地に設置された。 旅客機は、高度1万メートルで突如エンジントラブルが発生し、AIのシステムエラーで非常扉が開いたのだ。 その瞬間、人には外との気圧差で猛烈な圧力がかかり、見るも無残な姿になっただろうという。 やがてエンジンは爆発し、そのまま海へ突っ込んだのだ。 それは人間による操縦よりも、史上最悪の航空事故となった。  始めは何を恨めばいいのか分からなかった。 完全自動運転を行った航空会社を恨めばいいのか、AIを恨めばいいのか、それとも飛行機に搭載したAIを作った人間を恨めばいいのか。 しかし、恨んでも咲子は戻ってこないと悟り、何もやる気が起きなくなった。  咲子は俺にとって、ただの妻ではなかった。 幼い頃両親が離婚して母親に捨てられてから、女性に対する不信感が募るばかりだった。 付き合ったときは、優しすぎるからと言われ、同じように何人にも別れを告げられた。 それに対して反論する気にもなれなかった。 きっと、自分は必要とされない人間なのだと思った。 自分が好きでも、関わる相手には迷惑なことなのだと思った。 人を好きになっても仕方のないことだと言い聞かせているうちに、感情が薄れていく気がした。 神崎には何度も心配されながらも、俺が決めたことだからと言うと、やがて何も言わなくなっていった。 しかし、転機は訪れた。       咲子との出会いは、以前働いていた会社だった。 一度同じチームで働き、チームが解散した後、社食で咲子に声をかけられて以来、何度か社食で昼食を一緒に摂るようになった。 咲子は不思議な女性だった。 1ヶ月に数回しか話さない程度だったのに、いつの間にか俺の心の隙間に入っていた。 昼食を一緒に食べている中では、咲子を好きだとも思わなかった。 ただ、他の人と違うという印象だけがあった。
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