あめは甘いもの。

2/10
前へ
/27ページ
次へ
青く澄み切った空に浮かぶ小さな白い雲。風に揺れる青々とした木々の葉と芝生に、心地よい陽射しが降り注ぐ。そんな平日の早朝の広場に、ピアノの軽快な旋律が流れると、その音楽にのって元気な歌声が響き渡った。 ーー 新しい朝がきた 希望の朝だ 広場の中心あたりで少し間隔を開け、元気に歌っている人々。年齢層は高めだが、数人小さい子どもや若い子も一緒になって歌っている。 この地区ではこうやって毎朝6時に集まっては、ラジオ体操を行う。 なんでもこの地区では、様々な年代の交流に繋がるような楽しめる企画をモットーとしているらしい。 「では解散です!ええ。皆さんお疲れ様でした!」 ピンと伸ばした手の先で丸型眼鏡を上げ、会話を交わしながら解散していくお年寄りを見送る地区会長の田中主夫、43歳。 そんな田中主夫に、いつものように手を突き出す子ども達。眼鏡をくいっとまた上げると、突き出す小さな掌に、ポケットから取り出した飴を2個ずつ乗せた。飴を見て、嬉しそうな笑顔で顔を見合わすと、子ども達はお礼を言い、芝生をかけて行った。 体操がお開きになった中、まだ何人か世間話しで盛り上がっている人達がいる。体操は、終わっても解散するまでが長い。 ほとんどの原因は、中年おばさん達の噂話などの情報の交わし合いである。今朝もまた何か、世からぬ噂を聞きつけた様だ。顔を近づけ、深妙な面持ちで話し合っている。 そんな中、太陽の陽射しで眼鏡が光ると、腕時計をサッと確認する田中主夫。時刻は6時30分過ぎ、そろそろ家族を起こす時間である。 「田中さん、お疲れ様です」 「お、おお…………」 突然目の前に現れた小柄な少女。 隣には、小学4年生くらいの女の子が少女と手を繋ぎ、田中主夫を見つめている。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加