あめは甘いもの。

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目の前の少女2人を交互に見つめ、眼鏡の奥の細い目を、2.3度瞬かせる田中主夫。 「えー…どなたでしたでしょうか、ええ。」 と、眼鏡のツルを少しつまみ上げる。動揺すると、途端に出る田中主夫の癖のひとつだ。 「花咲です。ご挨拶が遅れてしまいましてすみません。」 と、言うなりぺこりと頭を下げ、笑顔を見せる少女。 そんな少女にまた瞬きをする田中主夫。「花咲」という苗字はこの辺りでも聞いたことがない。もしかして、と昨日の朝のことを思い出した田中主夫。 「あの、ええ、もしかしてお向かいに引っ越して来られた…」 「はい!すぐにご挨拶に伺いたかったのですが、なかなか出来ずにいまして。でも、とても優しそうな方で安心しました。どうぞ、よろしくお願いします。」 と、またもや笑顔を見せる少女。 すると、手を繋ぐ女の子のすぐ隣に座り、女の子について話し始めた。 「この子は、小学3年生の海といいます。少し人見知りなところがあるんですけど…」 そんな中、朝の日差しが雲間から現れ、3人を照らした。田中主夫にロリコンという趣味も概念もなかったが、なぜかその瞬間、周りの音が聞こえなくなった。すると、少女の心からの笑顔を照らす日差しがきらきらと輝く。しかし、それ以上に彼女の笑顔が眩く煌めき始めた。 「…なので、色々と教えて頂けると嬉しいです。あ、もうこんな時間!では、田中さんお先に失礼します。」 「あ、お、お疲れ様です…ええ。」 眼鏡のつるを上下に動かし、忙しく瞬きをする田中主夫。そんな田中主夫に笑顔でぺこりと頭を下げた少女は、終始無表情であった女の子と一緒に去って行く。 そんな2人の去る姿を見つめ、その場に佇む田中主夫。ふと思い出したようにラジカセと手持ち鞄を手にする。 結局、一緒にいた小学生くらいの女の子は一言も発っさなかったが、高校生と思われる小柄な少女については少しだけ知ることができた。少ない情報の中ではあるが、これは確実に分かったことである。 あの子は、あの少女は、完全なる… 「天使だ。」 そしてこの頃から、田中主夫の新たな扉が開かれたのであった。
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