恭介さんと僕・1

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「さ、陽介君、あーんってして?」 語尾にハートマークでもつきそうな程、甘ったるい声でアイスキャンディーを差し出される。 「明日食べたかったんですけど。っていうかなんで勝手に開けてるの」 「うん、まぁ開けちゃった物はしょうがないでしょ。溶けちゃったら取り返しつかないよ?さ、あーん」 そう言って薄く開けていた口に無理矢理アイスを突っ込まれる。 そういやうっかり忘れてたけど、彼の第1目的は、僕に絡む事。 軽くむせた。 「ちょっと、変な事しないでよ!恭介さん!」 訴えると彼はコンビニでしたようにまた顔を手で押さえた。 恐らく彼が反応したのは『変な事』だ。 僕の声がまともに彼の耳に入っていないことは明らかなので、 顔を覆っている手を外して、耳元でもう一度叫ぶ。 「変な事はしないでください!喉に入ったら危ないから!」 言い終わり、掴んでいた手を離そうとする。が、逆に掴み返されて、僕の体は床に倒される。 軽く打った頭が痛い。 起き上がりながら抗議の声を上げようとすると、それを遮るように恭介さんの顔が近づいてくる。 頭の痛みで思考が鈍ったらしい。 起き上がる体の動きを止められたのは、恭介さんの唇が僕のそれに重なった時だった。 浮かせていた上半身はもう一度床に戻されて、 唇はより深く重なり、少し開いていた隙間に舌が差し込まれる。 掴まれて居ない方の手で被さって来た体を押し返そうとするけれど、 そんなの無駄とでも言うように、簡単に押し戻されてしまう。 こういう時特に、彼との体格差を思い知らされる。 そのまま息苦しさで頭がボーっとしてきた時、ぽたぽたと頭に冷たい雫が落ちた。 その冷たさでようやく我に返り、もう一度恭介さんの体を押し返す。 意外にも彼は、素直に退いた。 アイスキャンディーはすっかり溶けている。 頬の辺りと口の周りがべたべたして、気持ち悪い。 不機嫌な僕とは正反対の顔で恭介さんは笑みを浮かべていて、それが余計に頭にくる。 「ごちそうさま」 そう言ってニッコリ笑って彼は立ち上がった。 「またアイス、買ってあげるよ」 もう2度と、同じ手は食わない。
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