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黒い服、陰鬱な雰囲気。
煙草とは違った、その場を出ても付きまとう煙の匂い。
彼が居なくなってから、3日が経った。
最期の最後までずっと一緒で、目の前で計画実行しやがった。
『忘れないで』なんて言ってたけど、忘れられる訳ないじゃんか。
アイツはずるい。それも計画の内だなんて。
「残される方の身にもなってみろよ…」
そう呟いていると、いきなり背中から誰かが抱きついてきた。
小さな子供ほどの重ささえなくて、だけど確かに、首に腕が回されている感触がある。
「だって、しょうがないじゃん?」
聞き覚えのある語尾上げ口調に首を斜め後に傾けると、
一昨日、箱の中に入っていた笑顔と同じものがソコにあった。
「なんでお前がここに居るんだよ!死んだだろおい。骨になっただろ!」
「あ、やっぱ見えるんだ?」
他の人は誰も気付いてくれなかったのに~と、腕を首に巻きつけたまま言う彼は、
確かに俺の目の前で死んだはずだ。もう会えないはずだ。
なのにどうしてこう、いつもと変わらないように笑っているんだろう。
「四十九日かなぁ?」
「なら、自分の家うろついてろよ」
ここはもう、俺の家への帰り道だ。
「家なんて、あってないようなものだったじゃん」
彼は、2週間に一度、自宅に帰ればいい方だった。
「それに、どうせ誰にも見えないみたいだし?」
しょうがないから、生きていた頃と同じように、一緒に帰る事にした。
結構人通りの多い通りを歩いていく。
死んだはずの彼がずっと俺の首に抱きついているのに誰も気にとめない。
足元を見ると、彼の足は地についていないのに。
それどころか時々思いっきり足を後にのばしたりしている。
どれだけジタバタしても、誰にもぶつからない。
本当に彼は誰にも見えないらしい。
『死んでる』ことは、間違いない。
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