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「会、長…」
はぁはぁと、いつもは乱れることのない会長の呼吸が、
走ってきたということを僕に伝える。
どうして、彼はここに居るのだろうか。
振り向いてしまいたい。
でも、振り向いたら泣いてしまいそうだった。
会長に会う気はなかったくせに
声を聞けただけで、
近くに居るというだけで、
たまらなく僕は嬉しくて。
本当は、会わないのではなくて会えないだけだったのだと
今さらながらに思い知らされる。
僕は、逃げ出した人間だから。
彼らに拒絶されるのが怖くて、逃げたから。
「雨谷…」
今度は静かな声が、僕を呼ぶ。
なんだか懐かしいとさえ思えてしまうほど、僕の耳には自分の名前が新鮮に聞こえた。
「なん、ですか?」
震えていなかっただろうか。
変に、思われはしなかっただろうか。
久しぶりに聞いた彼の声は、妙に掠れているように思う。
明くんと、少しはしゃぎ過ぎてしまったのかもしれないな、なんて。
そんなことを思って自分で落ち込む。
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