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「お?命介くん、まだ帰らないの?そろそろお母さんが心配する時間だよ?」
秋奈は、微笑みながらこの店の常連である命介に質問した。
「島野さん、HEROs'Impactのカード、残ってる?」
「あー、どうかなー…人気だからねぇ、このゲーム…」
秋奈はカードを陳列している、背後の棚に目を向ける。HEROs'Impactのカードは1パックも無く、カードの入っていた空箱が残っているだけだ。
「あ~…ダメだぁ、もう売り切れちゃってるわ」
「そっかぁ…」
ため息をつく命介。すると、レジ奥からもう1人、中年の男が現れた。男の名前は島野 冬次郎(シマノ トウジロウ)。
この店の店長だ。
「ハハハ、悪いね命介くん。出来る限り早く入荷するから、今日のところは我慢してくれるかな?」
そう言った冬次郎だが、秋奈は冬次郎のズボンのポケットが不自然に膨らんでいるのを見逃さなかった。
「お父さん……」
「ん?どした?秋奈?」
冬次郎がキョトンとした一瞬の隙を突き、秋奈は驚くべきスピードで冬次郎のポケットに詰まったものを抜き出した。
案の定、ポケットの中にあったのはHEROs'Impactのカードパックだった。
「コレは……何?」
「あ、店長さん、それ…カード……」
「あ、ああ、これは、ネ?」
無いと言われたカードが目の前にある事に驚く命介と、秋奈から自分へと向けられている軽蔑の視線にしどろもどろする冬次郎。
かくいう冬次郎も大のゲーム好きであり、特にカードゲームに関しては筋金入りのマニアであった。
当然HEROs'Impactも、その例外ではないというわけである。
「お父さん……『お客様は』?」
「へ?」
「『お・きゃ・く・さ・ま・はっ』!?」
「……『神様です』………」
「今ここに、このカードを欲しがってる「お客様」がいます。お父さんが今やるべきことは?」
「……そのカードを命介くんに売る事です」
「よろしい。」
そんなやりとりを瞬時に行ってから、
秋奈は、殺意すら感じられそうなその顔を笑顔に戻して、命介の方に向けた。
「ハイ命介くん♪1パック150円だよ♪」
「あ、じゃあ1パックで……」
「う…うわぁ~~~ッ!!!あ、あぁんまりだぁぁ~~っ!!」
着々と売買行為をこなす2人の横で冬次郎が泣き叫んだが、2人はあえてスルーすることした。
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