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山本さん家を出ても、車内はずっと賑やかだった。
口々に、山本さん家の汚さや、生活能力のなさや、掃除の時の出来事を話す。
お陰で英実はずっと笑いっぱなしだった。
ふと、兄が何かに気が付いた様に英実を見る。
「そういえば、英実はこのまま病院直行だからね。」
「え。そうなの?」
「お前は入院患者なんだから。諦めるんだな。」
「うわあ・・・。このまま家に帰りたい。」
英実が頭を抱えると、みんなが声を上げて笑った。
呻いていると、母親が椅子越しに振り返る。
それからとても気まずそうな表情で、一通の便箋を渡してきた。
「何?これ。」
封筒は一度破られたのか。
表面にはセロハンテープがたくさん貼られている。
英実は封筒の宛名書きを見る。
宛名欄は『佐野英実』
差し出し人は・・・『高藤肇』
「お母さん、これ!」
「ごめんなさいね。もうしないわ。」
母親は目を伏せると、前を向いてしまう。
英実は呆然と、手の中の封筒を見つめる。
その達筆な字は、確かに懐かしい肇さんの字だった。
英実は大きく息を吸い込む。
「読むね。」
ぽつりと呟くと、車内に緊張が走るのが感じる。
英実は心臓がどくどく波打つのを抑えながら、ゆっくり封筒を開ける。
中には、ボロボロになった便箋が入っていた。
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