10日目(下)

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◆◆◆ 山本さん家を出ても、車内はずっと賑やかだった。 口々に、山本さん家の汚さや、生活能力のなさや、掃除の時の出来事を話す。 お陰で英実はずっと笑いっぱなしだった。 ふと、兄が何かに気が付いた様に英実を見る。 「そういえば、英実はこのまま病院直行だからね。」 「え。そうなの?」 「お前は入院患者なんだから。諦めるんだな。」 「うわあ・・・。このまま家に帰りたい。」 英実が頭を抱えると、みんなが声を上げて笑った。 呻いていると、母親が椅子越しに振り返る。 それからとても気まずそうな表情で、一通の便箋を渡してきた。 「何?これ。」 封筒は一度破られたのか。 表面にはセロハンテープがたくさん貼られている。 英実は封筒の宛名書きを見る。 宛名欄は『佐野英実』 差し出し人は・・・『高藤肇』 「お母さん、これ!」 「ごめんなさいね。もうしないわ。」 母親は目を伏せると、前を向いてしまう。 英実は呆然と、手の中の封筒を見つめる。 その達筆な字は、確かに懐かしい肇さんの字だった。 英実は大きく息を吸い込む。 「読むね。」 ぽつりと呟くと、車内に緊張が走るのが感じる。 英実は心臓がどくどく波打つのを抑えながら、ゆっくり封筒を開ける。 中には、ボロボロになった便箋が入っていた。
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