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***(二枚目)***
しかし、その後しばらくの間は、英実のことを思い出すことはありませんでした。
それ所ではなかった、というのが本音です。
次に英実のことをはっきりと思い出したのは、一年後のことでした。
偶然、英実のことを見かけたのです。
あなたは一人歩いていました。
その表情は暗く、どこか不安定な印象を受けました。
私はとても気になりました。
しかし立場上声をかけるのは憚られ、その時はただ見ていただけでした。
その後も、いろいろな場所であなたのことを見かけました。
その度に英実の表情はどんどん暗くなっていくのが、不安で仕方ありませんでした。
そしてあの秋の日。
私はコンビニの前に座り込む英実を見た瞬間、一つの賭けに出ました。
もしかしたら、英実は私のことを知らないのでは、と。
ですから、わざとゆっくり英実の前を通り過ぎました。
あなたの視線を感じましたが、それは敵意があるものとは感じられませんでした。
私は戸惑いました。
英実に接触することで、どんな結果を招くか、十分理解していたからです。
しかし、あなたの暗い目が脳裏を離れなかった。
一晩考え抜いて、次の日行動に移しました。
それが、声をかけた日のことです。
その後のことは、英実も知っての通りです。
英実と一緒にいると、楽しい反面、いつでも私の中で『近付き過ぎてはいけない。』と警鐘が鳴っていました。
あなたと過ごす時間が長くなればなるほど、一緒にいる時間が貴重に思える様になりました。
手放し難かった。
こんな年上のおじさんが、何を考えているのかと、英実は思うかもしれませんね。
私自身、自分の気持ちに戸惑いました。
しかしあなたを大事に、愛おしく思う気持ちは強くなる一方でした。
あと少し、あと数日。
そんな風にずるずるとここまで来てしまった。
そんな自分勝手な願いが、あなたを最終的に傷つけてしまったのだと思います。
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