10日目(下)

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◆◆◆ 手紙から顔を上げると、兄がハンカチを手渡してくれた。 知らない間に溢れていた涙を拭く。 英実は、家族全員が手紙の内容を気にしているのに気が付いて、にっこりと笑った。 「私、初めてラブレターもらっちゃった。」 途端に車が大きく揺れる。 「お父さん!危ないわよ。」 母親の声に、父親が『ごめん。』と小さな声で言う。 その表情は、ひどく険しい。 「英実、結婚はまだ早いぞ。」 父親の発言に、英実は驚く。 「しないよ!」 「そうだぞ。男なんてたくさんいるんだからな。一人に決めるのは早すぎる。」 そんな父親に、母親が呆れ顔で囁く。 「あら。あなたが未来の奥さんを決めたのって、14歳か15歳の頃じゃなかった?」 「・・・!」 「英実。素敵な男性なら手離しちゃだめよ。」 「はあ。」 英実は何だか笑えてきてしまって、泣きながらにこにこ笑う。 すると隣の兄が、『笑うか泣くかどちらかにしろよ。』と言いながら、頭を撫でてくれた。 英実はぎゅっと手紙を胸に押し当てる。 胸の中がぽかぽかと暖かい。 肇さんの手紙が素直にうれしかった。 そう思えること自体も、とても幸せだった。 前を見ると、両親はまだお互いに何か言い合っている。 その仲良い姿を見ながら、英実は一つの決断をする。 「ねえ、お父さん、お母さん。」 「何?」 「私ね、行きたい大学があるの・・・。」 それは、英実がずっと憧れていた大学。 その大学名を聞いて、父も兄も驚いた顔になる。 だけど、母親だけは穏やかな表情のままだった。 「英実が行きたい所に行けばいいわよ。お母さんたちは応援するわ。」 その言葉に、父も兄も頷く。 「大変よ。死ぬ気で頑張りなさいね。」 「・・・はい!」 英実は幸せと寂しさを同時に感じる。 家族にただただ守られていた、長かった子供時代。 それが今日終ったのだと、英実は静かに理解した。
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