1898人が本棚に入れています
本棚に追加
◆◆◆
手紙から顔を上げると、兄がハンカチを手渡してくれた。
知らない間に溢れていた涙を拭く。
英実は、家族全員が手紙の内容を気にしているのに気が付いて、にっこりと笑った。
「私、初めてラブレターもらっちゃった。」
途端に車が大きく揺れる。
「お父さん!危ないわよ。」
母親の声に、父親が『ごめん。』と小さな声で言う。
その表情は、ひどく険しい。
「英実、結婚はまだ早いぞ。」
父親の発言に、英実は驚く。
「しないよ!」
「そうだぞ。男なんてたくさんいるんだからな。一人に決めるのは早すぎる。」
そんな父親に、母親が呆れ顔で囁く。
「あら。あなたが未来の奥さんを決めたのって、14歳か15歳の頃じゃなかった?」
「・・・!」
「英実。素敵な男性なら手離しちゃだめよ。」
「はあ。」
英実は何だか笑えてきてしまって、泣きながらにこにこ笑う。
すると隣の兄が、『笑うか泣くかどちらかにしろよ。』と言いながら、頭を撫でてくれた。
英実はぎゅっと手紙を胸に押し当てる。
胸の中がぽかぽかと暖かい。
肇さんの手紙が素直にうれしかった。
そう思えること自体も、とても幸せだった。
前を見ると、両親はまだお互いに何か言い合っている。
その仲良い姿を見ながら、英実は一つの決断をする。
「ねえ、お父さん、お母さん。」
「何?」
「私ね、行きたい大学があるの・・・。」
それは、英実がずっと憧れていた大学。
その大学名を聞いて、父も兄も驚いた顔になる。
だけど、母親だけは穏やかな表情のままだった。
「英実が行きたい所に行けばいいわよ。お母さんたちは応援するわ。」
その言葉に、父も兄も頷く。
「大変よ。死ぬ気で頑張りなさいね。」
「・・・はい!」
英実は幸せと寂しさを同時に感じる。
家族にただただ守られていた、長かった子供時代。
それが今日終ったのだと、英実は静かに理解した。
最初のコメントを投稿しよう!