萌芽の頃

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肇さんに続いて、いつもの会議室に入る。 「コーヒーでいいか?」 「はい。」 肇さんは会議室を出て行くと、すぐに暖かいコーヒーを持ってきてくれる。 「どうぞ。」 「ありがとうございます。」 何となく顔を上げれないでいると、肇さんがため息を吐いた。 「しっかし、急に押しかけて来るとはね。」 「・・・事前にメールしたけど。」 「5分前のメールじゃ、押しかけと変わりません。」 「うっ。」 ちらりと見ると、肇さんがにやにや笑っている。 『いつもの、肇さんだ。』 体から力が抜ける。 やっと視線がぶつかると、肇さんが目元を和らげた。 「耳は、もう平気?」 「はい。全快です。」 「良かった。」 肇さんは小さく息を漏らすと、コーヒーを一口飲む。 それにつられて英実もコーヒーに口を付ける。 そして心を決めた。 「あの。」 「ん?」 「お話が!あって・・・。」 「うん。」 胸がドキドキする。 震える手で、鞄の中からファイルを取り出と、肇さんの方に押し出した。 「進路が決まりました。」 肇さんはファイルを開く。 そこに書かれている文字を読んで、少し笑った。 「よく頑張ったな。」 その言葉を聞いた途端、勝手に目頭が熱くなる。 『ずっとこの言葉を聞きたかった。』 気を抜けば涙が出そうになるのを、ぐっと堪える。 悟られない様に息を吐くと、練習してきた言葉を口に出す。 「私、イギリスに行きます。4月にイギリスに渡って、一年間は準備コースに入ります。そこで勉強して、来年秋にこの大学に入れる様に頑張りたいと思っています。」 「そうか。」 「私、心理学を学びたいんです。将来はそういった職に就きたい。」
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