萌芽の頃

5/7
1890人が本棚に入れています
本棚に追加
/188ページ
長い長い沈黙。 耐え切れずに、思わず顔を伏せる。 それを破ったのは、肇さんだった。 ふっと笑う気配。 「英実、こっち見な?」 ゆっくり顔を上げると、肇さんが柔らかな表情で見つめている。 「ったく、どれだけ待たせるんだか。英実は意外に悪女なのか?」 「へ?」 「俺の渾身の手紙の返事が、天気の話じゃなあ。さすがに落ち込むよ。」 頬がかあっと熱くなるのが分かる。 「えっと・・・?」 「ずっと、待っていたんだ。」 「?」 今だに理解できない私の様子に、肇さんがため息を吐く。 肇さんは席を立つと、隣の席に腰掛けた。 間髪入れずに、肇さんの両手が頬を包み込む。 「英実、好きだよ。」 肇さんの低い声。 頭の中が一瞬で真っ白になる。 思わず肇さんを見つめると、肇さんが目元を和らげた。 「うんと大事にするから、俺の恋人になってくれるか?」 「・・・はい。」 震える声で返事をすると、肇さんがぎゅっと抱きしめてくれた。 うれしくて、うれしくて、涙が次々と溢れる。 「ほら泣くな。」 「だって・・・。」 「全く。」 肇さんが私の目元に口付ける。 「きゃっ。」 思わず顔を離すと、肇さんが苦笑する。 「本当に、英実はお子様だよなあ。」 呆れたような口調。 だけど、それはとっても楽しそうに聞こえる。 「まあ、そこの所もひっくるめて面倒見てあげるよ。」
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!