2年後

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隣で笑う気配。 窓の外を見ながら、英実は考える。 英実は、自分が不安になる理由をちゃんと知っていた。 肇さんはすごく私を大事にしてくれている。 たくさんの電話、時折来る手紙。 肇さんの声や文字から、大事にされているのは感じていた。 こうやって久々に会えば、何だかんだと甘やかしてくれるし、抱きしめたり、キスしてくれたりする。 だけど、肇さんは一線を越えようとはしなかった。 それも一つの肇さんの優しさ、というのも分かっているけど・・・。 物思いに耽る英実を乗せて、車は順調に市街を抜ける。 「英実、悪いけど後ろからペットボトル取って。」 「うん。」 後部座席を振り返って、『あれ?』と思う。 「ねえ、後ろの荷物って何?」 ペットボトルを渡しながら聞くと、肇さんがにやりと笑った。 「せっかくだから泊まろうと思って。」 「え!?」 「今から行く所に、昔貴族が使っていた館を改装したホテルがあるんだよ。英実そういうの好きだろ?」 「好きだけど・・・。」 どうして急にそんなことになるんだろう。 「もしかして誕生日の前祝いと?」 自分でも現金だと思うけど、胸が弾む。 「そうだね。ま、それだけではないけどな。」 信号が赤になって車が停る。 肇さんの一言が気になって運転席を見ると、肇さんがじっと私を見つめていた。 「あと、11時間。正確には11時間15分。」 「?」 英実は時計を見る。 今は12時45分。 プラス11時15分すると、明日になるけど。
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