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初めて彼を見かけた日は、模試の結果が人生最低点を更新した日だった。
赤く色づいた葉がひらりと舞う中、私は家に帰りたくなくって、コンビニ前の花壇の縁に腰掛けていた。
セーラー服姿の私が珍しいのか、道行く人が私に目を留めるけれど私は気にならなかった。
それよりも家で待っている母親からどんな言葉を浴びせられるのかが気がかりでしょうがなかった。
彼の姿が目に入ったのは偶然。
少し薄汚れたネコが私の目の前を通り過ぎ、彼の足もとにすり寄った。
そのネコを見ていたせいで、必然的に彼にも目が行ったのだった。
彼がぱっと人目を惹くタイプだとすぐ分かった。
長身に、少し長めの髪の毛を後ろに結わえ、がっちりした体は紺色の作務衣に包まれている。
よくよく見ると作務衣には所々に墨が染みついていた。
『何の職業なんだろう?』
不思議に思ってまじまじと見ていると、ふいに彼の漆黒の目が私に向けられる。ばちっと目が合ってしまい、慌てて下を向いた。
そんな私を気にする様子はなく、彼は何も言わずにコンビニに入っていった。
その横顔を盗み見ながら、やっぱりかっこいい人だなあと思う。
整った顔に、優しそうな目元。でも何より印象的なのは漆黒の目。
あんな深い色をした瞳は見たことがない。
時計に視線を落とすと、既に19時を回っていた。
これ以上遅くなると、今度は門限について母親を怒らせることになる。
ため息を一つ吐くと、私は数時間ぶりに花壇から立ち上がった。
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