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◆◆◆
翌日、私はまたコンビニの前に座り込んでいた。
「あーあ。」
つま先で落ち葉を突きながら昨晩の母親の言葉を思い出す。
『佐野の家はみんな国立大に行くものなの!なのに、なんなのこの歴史の点数。あなたやる気があるの!?』
「・・・やる気はあるわよ。」
また一つため息を吐きながら、すっかりぬるくなったコンポタの缶をくるくる回してみる。
国立大の受験には、センターで社会が必須科目になっている。昔から社会系が苦手だった私は、やっぱり日本史が弱点だった。
どんなに一生懸命に年号を覚えても、日本史の点数が伸びる気配はない。
「あーあ、歴史なんてなくなっちゃえばいいのに。」
「それはまずいんじゃないか?」
「えー・・・。」
「歴史がなくなったら、今の俺らもいないだろう?」
そこまで会話して、はたっと気が付く。
『あれ?私は誰と会話しているんだろう??』
恐る恐る斜め上を見る。
と、そこには面白そうに私を見下ろす長身の男性が立っていた。
「!!」
びっくりして思わず立ち上がると、コンポタの缶が傾いて思いっきり足にかかってしまった。
「きゃっ。」
「おい!大丈夫か!?」
目の前を大きな影が横切ったかと思うと、その人は躊躇することなく私の足もとに跪いた。
少し乾いた、温かい指先が私の足に触れる。お父さん以外の大人の男性に触れられるのは初めてで、私は恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまった。
「火傷はしてないみたいだね、よかった。」
「あ・・・はい。」
「悪かったね、驚かせてしまって。大丈夫?」
ようやく立ち上がったその人は、心配そうな目線を私に向ける。その温かみにある黒い瞳に見つめられて、鼓動が少しだけ乱れた。
「大丈夫です。こちらこそすみませんでした。」
「うーん。寒いし風邪ひいたら大変だな。家はどこ?」
「えっと、瑞井町です。」
私の返答に、その人が考え込む様に眉根を寄せる。
「少し遠いね。俺の家はすぐ近くなんだ。家まで車で送っていくよ、俺の責任でもあるからね。」
「え!大丈夫です。」
「そうだ、ベタベタするだろうし風呂も使っていいよ。」
「や・・あの・・・。」
「そうそう、俺の家は職場兼自宅だから、俺以外にも人がいるし安心していいよ。」
「はあ・・・。」
「家に来るよね?」
その人がにっこりと笑う。
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