奴隷

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 それは思わぬ、宇宙人からの頼み事だった。だが、頼まれたからといって、過去の奴隷文化を否定してきた人類が、かつての邪悪な文化を復活させる訳にはいかなかった。  宇宙人の扱いをどうするか、相談しても結論が出る訳でもなかった。彼らは、地球に益をもたらしてくれる存在ではなかった。当初こそ、保護という形で彼らを優遇してきたが、数が多すぎた。保護を続けるだけでも、多額の資金が必要となる。とても、税金だけで賄いきれる額ではなかった。  やがて、一部の科学者と医者によって、秘密裏に新薬の実験台として宇宙人が使われた。気付かれないように、薬を少量ずつ食事に混ぜたり、栄養剤だといって飲み薬として提供したり、点滴薬として使ったりと。表沙汰になれば、間違いなく逮捕されるような危ない綱渡りだった。だが、科学者や医者の間で、それを批判する者はいなかった。役に立ちそうもない彼らを養うのにも、限界がある。少しでも数を減らせるのならばと、暗黙の内に了解されていた。この違法とも呼べる、人体実験では、当然のことなら死ぬ宇宙人もいたが、彼らは少しも地球人を恨むことなく、少しでも長く生き存えたことを喜んでいた。騙して実験を続けていた科学者達はなんとも、複雑な心境だった。  しかし、それでも宇宙人の数が減る訳ではない。中には薬が成功して、長生きできた宇宙人もいた。もちろん、宇宙人同士の間で繁殖行為が行われ、子供が生まれ数だって増える。それらを保護する為には、人体実験だけでは資金を確保することもできず、経費を圧迫するようになった。すると、一部の団体が反対運動を起こすようになった。宇宙人の保護なんかに、血税を使うな。使う余裕があるなら、市民生活を改善させろいった主張だ。そして、当然のことながら、そのような団体からは、過激派と呼ぶべき人物も現れた。  過激派の人間は宇宙人を保護している施設に侵入し、そこで宇宙人を何人か誘拐してくると日頃の鬱憤を晴らすように、彼らを痛めつけた。相手は人間ではないので、良心が痛むということもなかった。中には、加減を知らずに、宇宙人を殺してしまう輩もいた。だが、どんなに痛めつけられようと、宇宙人は憎しみの言葉を口にしようとはしなかった。ただ、生き存えたことを喜んでいた。
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