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「皆んな誕生日来てる?」
透さんが問いかける。
俺たちは今年20歳を迎える。
みんなが頷くのを見てシャンパングラスを用意した。
「皆んなとお酒を飲む日がくるとはね」
透さんは優しく笑う。
「乾杯」
恐る恐る確かめる様にゆっくりグラスを傾けるユウ。
安斎は慣れた感じで一口飲み込む。
「嬉しいな」
ユウが笑う。
「学祭でまた来年もここに立とうって約束を果たせなかったのが心残りだった。
今日みんなと会えて、ライブができて、透さんのお店で演奏して、みんなでお酒飲んで」
ほんのり頬を赤くして
「夢が全部叶っちゃった」
無防備な笑顔を向ける。
もう暫く離れていたのに、性懲りも無く俺の胸の奥はユウの笑顔ひとつでこんなにも乱される。
透さんが店の締め作業を始めた。
「実家に帰るの?」
「今日は遅くなると思ったからホテルなんだ」
「タクシー捕まえてくるからちょっと待ってて」
スマホを持って外へ出ようとすると
「哉太」
ユウに呼び止められる。
「ん?」
「私も行くよ」
「……あぁ」
ゆるい風が吹いていた。
ユウの長い髪が風になびいて揺れる。
「要は小学校の先生になるんだね」
「うん、らしいよね」
「似合う」
「子供に好かれそうだしね」
「昔からモテてたよね」
「……今、彼女いないらしいよ」
「へぇー、そうなんだ」
ユウは、今も兄貴が好きなのだろうか。
「哉太は?」
「え?」
「彼女」
「……いないよ」
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