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上機嫌に話す部長へ俺は半眼で呻く。
「いやいや、もちろん旅行としても楽しみだけど、僕が気になっているのはあくまで言い伝えだよ」
ひらひらと手を振りながらそう答え、こちらの視線を気にすることなく部長は車に乗り込んでしまう。
「まったく、お気楽な先輩だよな。俺らも車に戻ろうぜ」
まだ村を眺めている女子二人へ促すように言うと、桜が頷きながら振り向く。
「そうね。乃亜ちゃん、行こ?」
「……」
隣に立つ後輩へ声をかける桜だったが、蓮田は無反応に立ち尽くすだけで動こうとしない。
「……乃亜ちゃん?」
伏せるような眼差しでじっと村を見下ろす蓮田の顔を、桜は横から覗き込む。
「どうかしたの?」
「いえ、別に」
僅かに首を曲げつまらなそうに短く告げると、蓮田は足音もなく車へと引き返していく。
そんな彼女をポカンとしながら見つめていた俺と桜は、視線を交わして苦笑し合う。
「……やっぱり、あたしにはあの子を理解するの無理だわ」
「右に同じで」
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