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投げやりに言う幼なじみに賛同して、俺は車のドアを開けて乗り込む。
「よし、じゃあ行くよ」
桜が後に続きドアを閉めるのを確認すると、由奈さんはまたアクセルを踏み込み山道を走りだした。
観光客もほとんど来ないという寒村、藤咲村。
そこに伝わる奇妙な言い伝えと、村で唯一の名所であるという巨大藤。
それらを調べるだけの目的で訪れたこの村で、残酷で不可解な連続殺人が起ころうとしていることなど、この時は誰も予想すらしていなかった。
(藤を裂く村、か……)
新緑が群生する景色を眺める俺の頭に、由奈さんが言った言葉が蘇る。
(なんていうか、あんまり良い呼び名じゃねーよな)
漠然とした不安感を覚える気持ちをよそに、車は引き返すことのできない悪夢の舞台へと走り続ける――
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