第一章:隔離された村

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      【1】 山道を抜けて景色が開けると、そこにはひたすらに濃い緑が広がっていた。 先程上から見た景色とはまた違う、田園風景。 農道の脇を流れる小川や、個人用なのであろう小さな畑に立てられた、年季の入った案山子。 ちらほらと目に入る民家の庭には、ペットボトルで作られた風車のような物もあった。 青空の下、どこまでも続く田舎独特の平穏な空気と、それらを包み込むように村を囲みそびえる山々が、ここが自分たちの普段暮らしている環境とは全く別の世界であるのだと強く認識させてくる。 上空を、トンビが大きく旋回しながら飛んでいるのに気づく。 窓から見えるそれらの景観をぼんやり眺めていると、車は緩やかに減速して細い砂利道に入り込んだ。 前方に顔を向けて行き先を確かめると、白い長方形の建物が建てられているのが見えた。 「さぁ、着いたよ。あそこが今日から四日間みんながお世話になる宿泊先、藤美荘」 ガタガタと揺れる車体の中、由奈さんが明るい声をあげる。
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