第一章:隔離された村

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その声につられ前方を覗き込むように身体を屈ませた桜は、建物を認識した途端に戸惑うような反応をみせた。 「……どこに泊まる場所があるんですか?」 目を細めながら食い入るように先を眺めるその声音は、わかりやすいくらいに強張っている。 「どこって、この先建物は一つしかないじゃない。あそこが藤美荘だよ」 ハンドルを握ったまま由奈さんが指差すのは、長方形の白い建物。 二階建てで、パッと見た限りでも二十以上は部屋がある。 「藤美荘って……、あれどう見ても学校にしか見えないんですけど」 一通り藤美荘なる建物を眺め回して、桜はバックミラーに映る由奈さんの顔に視線を注ぐ。 「見た目はね。確か、十年くらい前に廃校になったって言ってたかな。それで、五年前に村長さんの提案で観光客が来た時のための宿泊施設として再利用しようって話になったの」 「五年前って言うと、由奈さんがこの村に引越した年だよね?」 相槌をうちながら部長が訊ねると、由奈さんはそうだよ、と頷いた。
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