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エンジンが止まり、車が停車する。
一番に外へ降りた部長が、藤美荘と周囲の景色を見比べながら納得するような声を漏らした。
「て言うか、ここ年にどれくらいお客さんが来るんですか?」
少し遅れて車から出た桜が、胡散臭げな眼差しを宿に向け訊ねる。
正直、この疑問は俺も感じていた。
知名度も無いに等しい言い伝えと、これから見せてもらう予定の巨大藤。
それくらいしか取り柄のないこの村へ、頻繁に観光客が来るなどあり得そうもない。
実際、村で暮らす由奈さん自身がほとんど余所者は来ない村だと、ここへ向かう前に言っていたのだ。
おそらく、訪れる者など数える程度しかいないのだろう。
「えー……、何人だろう。その年にもよるけど、多くてもせいぜい二十人くらい? 少ない年は四人ってときもあったかな。二年前くらいに」
車のトランクを開け全員の荷物を取り出しながら、由奈さんは肩を竦める。
「四人……。よく潰れませんね」
顔をひきつらせる桜。
「だから、そこは村長の財力が成せる技よ。ほとんど趣味みたいなものだろうし」
お金はちゃんと貰えてるから、わたし的には不満はないけどね。
そう付け加え、由奈さんはそれぞれの荷物を手渡す。
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