第一章:隔離された村

6/84
前へ
/532ページ
次へ
エンジンが止まり、車が停車する。 一番に外へ降りた部長が、藤美荘と周囲の景色を見比べながら納得するような声を漏らした。 「て言うか、ここ年にどれくらいお客さんが来るんですか?」 少し遅れて車から出た桜が、胡散臭げな眼差しを宿に向け訊ねる。 正直、この疑問は俺も感じていた。 知名度も無いに等しい言い伝えと、これから見せてもらう予定の巨大藤。 それくらいしか取り柄のないこの村へ、頻繁に観光客が来るなどあり得そうもない。 実際、村で暮らす由奈さん自身がほとんど余所者は来ない村だと、ここへ向かう前に言っていたのだ。 おそらく、訪れる者など数える程度しかいないのだろう。 「えー……、何人だろう。その年にもよるけど、多くてもせいぜい二十人くらい? 少ない年は四人ってときもあったかな。二年前くらいに」 車のトランクを開け全員の荷物を取り出しながら、由奈さんは肩を竦める。 「四人……。よく潰れませんね」 顔をひきつらせる桜。 「だから、そこは村長の財力が成せる技よ。ほとんど趣味みたいなものだろうし」 お金はちゃんと貰えてるから、わたし的には不満はないけどね。 そう付け加え、由奈さんはそれぞれの荷物を手渡す。
/532ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1042人が本棚に入れています
本棚に追加