1041人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、あくまでも努力はしていると感じるだけで、やはり宿泊施設として見た場合の違和感は拭えない。
「何か、旅館としては微妙だよな?」
由奈さんや碧さんに聞こえないよう、俺は小声で桜へ話しかけた。
「うん。何かセンスの悪い豪邸崩れみたい」
「……確かに」
悪気のない様子で言ってくる幼なじみに苦笑しながら、俺はずっと最後尾を歩いていた蓮田へ振り返る。
「蓮田はどう思う?」
問われて、微かに顎を上げる後輩。
「何がですか?」
「この旅館の第一印象とか」
「……特には」
チラッと目だけを周囲に這わせて、蓮田がそれだけを告げる。
「なるほど」
つまりは、興味無しということか。
無駄に広い玄関を上がり――因みに、下駄箱は学校で使用されていた物を再利用していた――、碧さんの案内で通路を進む。
おそらく偽物だろうが、壁には等間隔で様々な絵画が飾られている。
「あれ? これムンクの雄叫びじゃない?」
「雄叫びじゃなくて叫びだろ」
途中、一枚の絵画を指差して得意そうに言ってくる桜へ、呆れながら言葉を返しておく。
最初のコメントを投稿しよう!