第一章:隔離された村

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「こちら、村長の奥様。ある意味、ここの女将みたいな人かな」 「女将だなんて、そんな大層な肩書きありませんよ」 紹介されたその人物は、目尻に皺を寄せながらやんわりと微笑んだ。 「こんにちは、皆さん。わたくし、梅木 千賀子(うめき ちかこ)と申します。この度はこんな辺鄙な場所までわざわざ御越しいただいてありがとうございます」 落ち着いた口調で挨拶をすると、千賀子さんは深々と腰を折って頭を下げた。 「ここ、変な宿屋でしょう? うちの主人が娯楽で営んでいるだけのものだから、泊まりに来るお客様は大抵苦笑いをしながら帰っていかれるのよ」 口元に手をやりながら上品に笑う千賀子さんに、俺はふと気になっていたことを訊ねてみた。 「あの、ここって風呂とかちゃんとあるんですか?」 元は小学校だったという建物だ。 普通に考えたらそんな設備があるはずがない。 まさかプールが風呂になっているとか、そんなオチは無いと願いたいところだが。 「ご安心してください。お風呂はちゃんとご用意してありますから」
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