‡プロローグ‡

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今年の春から顔を合わせるようになって早一ヶ月くらいにはなるが、未だ蓮田の方から声をかけられたことは一度もなく、誰かに話しかけている姿も見たことがない。 普段は常にぼんやりと外を眺めているか文庫本を読んでいるばかりで、笑顔どころか無表情以外の表情すら表に出そうとする素振りもなく。 (いつも何を考えてるのかさえ、さっぱりわからないんだよな……) 容姿は可愛いのに、性格でその全てを台無しにしているのだから勿体ない。 「雄治、乃亜ちゃん攻略方とか思いつかない?」 「俺には無理だ」 すがるように言ってくる桜にキッパリと告げて、軽く肩を竦めてみせる。 「だよねぇ。雄治にも荷が重いか」 諦めたように呟いて、桜はまた窓の外へ視線を戻してしまう。 「あのさ、車乗る前からちょっと気になってたんだけど」 こちらのやり取りを鏡越しに見ていた由奈さんが、会話が途切れたのを見計らっていたかのように話しかけてきた。 「きみたち二人って、何か異様に馴染んでるように感じるんだけど、ひょっとして恋人同士なの?」
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