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くず、と罵ってやる。淡雪はそうかなあとやはり納得のいかない顔をしている。
「じゃ、ゆうちゃん、僕のために……」
「おまえが死ね」
「ひどい! 僕は生きるよ、生き延びるよ!」
「知ってる」
この男は、きっと誰よりも長生きする。
「それで。みゆきちゃんの頭ひっつかんで、湯船に突っ込んだわけだ、いつも通り」
「うん」
あっさりと淡雪は頷く。悪びれもせずに。
「ものすごく抵抗されたよ」
「当たり前。殺されかけてるのに抵抗しないわけないじゃん」
「でもさあ……」
「いつも言ってるけど。あんたのために死ねるって言葉は、ただの比喩なの。本気じゃないの」
「そうかなあ」
私は一度だけ、淡雪が女の子を殺そうとしている現場に居合わせたことがある。たまたま遊びに行ったら、浴室で淡雪が女の子を溺死させようとしていたわけだ。
細い腕でも男は男で、殺されかけていた女の子は必死で両手をばたつかせていた。私は淡雪をぶん殴り、女の子を救出したのだが。
そのときの淡雪の言葉は確か、嘘つき、だった気がする。女の子は泣きながら帰っていった。
木戸淡雪は、とんでもない、頭のおかしい、馬鹿男なのだ。けれど、モテる。そりゃあモテる。顔がいいからだろうけど、こんなのと付き合いたいなんて思う女も頭おかしい。
「それはともかく、今日はどうしたの、ゆうちゃん」
首を傾げる淡雪に、私は我に返った。
「……村崎(むらさき)は?」
私はここへ来た一番の目的の名を口にした。淡雪は肩をすくめてみせる。
「今日はまだ来てないよ。あのさあ、ゆうちゃん。僕の部屋に来ないで、宗太(そうた)のとこに直接行きなよ」
「うるさい」
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