1章

3/32
前へ
/143ページ
次へ
くず、と罵ってやる。淡雪はそうかなあとやはり納得のいかない顔をしている。 「じゃ、ゆうちゃん、僕のために……」 「おまえが死ね」 「ひどい! 僕は生きるよ、生き延びるよ!」 「知ってる」 この男は、きっと誰よりも長生きする。 「それで。みゆきちゃんの頭ひっつかんで、湯船に突っ込んだわけだ、いつも通り」 「うん」 あっさりと淡雪は頷く。悪びれもせずに。 「ものすごく抵抗されたよ」 「当たり前。殺されかけてるのに抵抗しないわけないじゃん」 「でもさあ……」 「いつも言ってるけど。あんたのために死ねるって言葉は、ただの比喩なの。本気じゃないの」 「そうかなあ」 私は一度だけ、淡雪が女の子を殺そうとしている現場に居合わせたことがある。たまたま遊びに行ったら、浴室で淡雪が女の子を溺死させようとしていたわけだ。 細い腕でも男は男で、殺されかけていた女の子は必死で両手をばたつかせていた。私は淡雪をぶん殴り、女の子を救出したのだが。 そのときの淡雪の言葉は確か、嘘つき、だった気がする。女の子は泣きながら帰っていった。 木戸淡雪は、とんでもない、頭のおかしい、馬鹿男なのだ。けれど、モテる。そりゃあモテる。顔がいいからだろうけど、こんなのと付き合いたいなんて思う女も頭おかしい。 「それはともかく、今日はどうしたの、ゆうちゃん」 首を傾げる淡雪に、私は我に返った。 「……村崎(むらさき)は?」 私はここへ来た一番の目的の名を口にした。淡雪は肩をすくめてみせる。 「今日はまだ来てないよ。あのさあ、ゆうちゃん。僕の部屋に来ないで、宗太(そうた)のとこに直接行きなよ」 「うるさい」
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加