1人が本棚に入れています
本棚に追加
飛鳥山高校は小山の中腹に位置する。
中途半端な時間での解散になったため、僕らは自転車小屋から自転車を押し、未だ活動中の野球部の横を素通りして校門をくぐった。
学校が高台にある為に、当然目の前は下り坂になっていた。登校時には憂鬱にならざるを得ない、長距離の登り道と化すが。
「お前も同じタイミングで帰る必要はないだろう」
「カゲのおばさんに用があんの。あんたこそ、とっとと帰ったら?」
いつもは解散して暫くは学校に残っているアヤネが、珍しく、あろうことか一緒に付いて来る。
道中までコイツと一緒なんてたまったもんじゃない!
「この坂道を他愛ない無駄話をしながらゆっくり歩いて下るのが日課なんだよ。ストレス解消法まで邪魔されてたまるか」
「大方、私への悪口でしょうが」
「仕事の話とかもしてくれるよ。8対2くらいの割合で」
「カゲ……」
簡単に喋ってくれたカゲに一応制止の眼差しを贈りながら、背中でアヤネの視線の変化を敏感に感じ取る。
どうやらどっちが8でどっちが2かは予想に難くなかったらしい。そして、多分それであっている。
「ま、それはこっちも同じようなもんだし置いておくとして」
そしてどうやらどこかで僕の悪口を言っているらしい。っておい。
「仕事って、あんたガチでハッカーとか言ってんじゃないわよね」
「その通りだし、仕事じゃなくボランティアだ」
「ボランティア……なるほど、金は取らないから、アンタが言っていた『ハッカーとクラッカーは違う』ってのを広める地道な活動……ってとこか」
「なっ」
思わず『その通りだ』と言いかけた。
確かに、ハッカーとしての技術をつかってとある活動をする見返りに、そのことを広めるのが目的ではある。こいつは本当に心を読んでいるのか?
「あんたが世間知らずの馬鹿ってのは分かった。でも、それに対して私の見解は……」
「……なんだよ」
ワザとらしい間に、僕は思わず催促してしまうと、アヤネは一つ鼻で笑うと『呆れて言葉もでない』と告げる。
そして僕は……とりあえず予想はしていた。
「僕だって、やってることが世間知らずだって言うのはわかってるつもりだ」
それでも、やらずにはいられないんだ……。
そうして僕は自転車に跨ると、ペダルを踏む。
「わるいカゲ、やっぱ先帰る」
「う、うん。また。明日」
気に入らない。
最初のコメントを投稿しよう!