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「ナイスだカゲ」
「だいじょうぶ?」
大きな目をこっちに向けるカゲの頭をポンと叩いた。
カゲが指差す方向には、帰る生徒ばかりで先生などどこにも見当たらない。つまりはハッタリだったというわけだ。
随分古典的な手だが、引っかかったのはブラック西川先生の悪名のおかげか。
ブラック西川はとても厳しい生徒指導の先生、担当は音楽。
同じ西川姓の先生がもう一人居り、そっちは生徒に人気の優しい老先生で、区別する為に生徒間でブラック西川、ホワイト西川と呼ばれているのだ。
まぁ、カゲはどっちとは言わなかったのだが……あいつら恐らく何かやらかしたのだろう。詮索はやめておく。
「毎回、お前の機転には助けられるよ」
「まぁね」
そこでなぜか胸を張るカゲ。こいつはどうにも気弱なのかしたたかなのかわからん。だが面白い奴だ。
こいつは勘もよく瞬間的思考に長ける。おまけにくじ運も良い、僕の右腕。
「それよりも……」
「あぁ、急ごう。遅れてアイツの睨みにお出迎えされるのはごめんだからな」
「あやねちゃん?」
「他に誰が居る」
三日月朱音、パソコン同好会の紅一点、三人目のメンバー、そして僕の学園生活を脅かす魔女。
アイツのクマのある目で睨まれる度に、こっちは刃を突き付けられたような感覚に陥るのだ。実際突き付けられたことなどないが。
兎も角、アイツに先に待ち受けられるのは御免だ。
「ダッシュ」
階段に辿り着いた瞬間に跳ぶ。この階段を滑るように降りる瞬間と言うのは、とても軽快でいい。
「なおく~ん!」
「ぐ……カゲ、もう少し急いでくれよ」
「ごめん。ぼくはちょっと。無理かなぁ」
高所恐怖症なカゲは、階段を跳ぶことすら怖くてできないらしい。
これでは時間がかかってしまう……だが置いていく気にはならない。
「はぁ……仕方ない。諦める」
「ごめん……」
横で仲良し男女が笑いながら駆け下りていく中で、男子高生同士はゆっくり、一段一段を降りて行った。
同好会の活動しているのは理科準備室で、面倒なことに教室のある棟とは別の建物にあるので、僕らは一度下まで降りてから、隣の建物に移り、また上る。因みに日差しは避けている。
そして付いた、放課後だけ『パソコン部使用中』と言う、カゲ自作の札が掛かったドアを開けると……。
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