自称ハッカー

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「チッ」 「うぐッ!」 ドアを開けた瞬間に放たれた舌打ちと、殺気にも似た視線に思わず呻いた。 理科準備室、薬品や標本などが置かれた棚に囲まれるようにして置かれたテーブルの奥、汚らしいソファーに座ってノートパソコンをいじっているポニーテールの女子が、ご丁寧にこちらむきで作業していたのだった。 因みにシャツにネクタイをするのがウチの制服だ。 「……ようアヤネ」 「昨日、顔見せんなって言ったよね」 「僕が幽霊部員になったのがバレた暁には、即この同好会は解散だが、それでいいのなら考えてやってもいいぞ」 「……腹立つ」 目つきがギロリと一層怖いものに変わって、僕は負けじと視線を合わせ続ける。 この学校で同好会を作るにあたって、最低条件として『三名以上の実働部員の存在』と言うのがあるのだが、出来立てのこの同好会は稀に抜き打ちで活動の確認が行われる対象にある。 なので、誰もサボるわけにはいかないのだ。 まぁ、実のところは三人ともこの同好会を心のよりどころとしている節があるので、アヤネはおろか、僕だってサボる気は毛頭ない。 「あやねちゃん。今日も早いね」 「カゲのクラスが遅いのよ。ホント、特進行かなくて良かったわ。害虫にも悩まされそうだし」 「そこでなんで俺を睨まなきゃならんのだ」 「2人は……変わらないね」 にらみ合う俺たちを見比べながら、カゲがポスンと椅子に座ると、俺たちは同時に目を逸らした。 僕たちの関係はカゲがいて初めて成り立っている。 親友である僕。そしてアヤネはカゲの従姉弟なのだ。 故に、カゲロウが部活を作ると言った時には2人とも快く協力した。 そんな関係上、カゲはこの同好会で潤滑剤、および清涼剤としてうまいこと機能している。 そのカゲの存在と、パソコンと言う共通の趣味が無ければ、僕たちの関係は簡単に破綻していたことは想像に難くない。 「昨日の続き?」 「仕方ないでしょ。ブラック西川に頼まれてんだから」 カタカタと叩かれるキーボードの音が止まると同時に、アヤネはため息を吐いた。 やっているのは、この学校のPRサイトの作成だ。 ブラック西川の依頼で、同先生の纏めたPRポイントをもとにサイトを作っている。 「アンタも早く始めなさいよ」 「言われんでも」 僕はバッグからノートパソコンを取り出して、電源を入れた。
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