白雪香澄

5/19
前へ
/326ページ
次へ
うー… と声にならない声を出して一歩俺に近づくと 「――蓮ー…」 少しはやっぱり不安だったの と消え入りそうな声で呟いた香澄は こつんと自分の頭を俺に預けて肩を震わせた。 「――香澄 泣くの遅すぎ     皆もう泣き終わってる 」 「……いーの     …卒業で泣いてるんじゃないし」 俺は俯く香澄の肩に両手を置いて下から覗き込む。 潤んだ目が俺を捉え、 一筋涙が流れると、それを指で拭った香澄は泣き顔のまま言葉を繋いだ。 「…この門を出たらもう学生じゃなくなるけど、  お互いがんばろうね」 「…ああ」 俺は体を預けた香澄の体をそっと包んで小さく頷き、 だんだんといなくなる人波の隅で、いつまでも小さく震える香澄を抱きしめていた。
/326ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1237人が本棚に入れています
本棚に追加