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一気にその傘を買う気が失せた俺は
「香澄こそこれにしなよ」
と紺色の傘を手渡した。
差し出した俺の手を抜けて、
元に戻したブルーの傘をまた手に掴んだ香澄は
「蓮ー… 私、買ってくれるならこれが欲しいの。
――お願いー…」
視線をその傘と俺とに交互に送り、最後にもう一度俺を見上げた。
横目で香澄を見下ろす俺と、その視線を受けながら
尚も傘を握ったまま俺を見上げる香澄。
お互い逸らさない視線のやり取りを、先に逸らしてしまったのは俺の方だった。
はぁ…と
大きく息を吐き出すと、片手を腰に当てて、もう片方の手を香澄に差し出す。
「……貸して ソレ」
(――はー…結局お姫様には逆らえない、か )
俺は地味な紺色の傘と、ブルーの傘を手にレジへと一歩踏み出す。
香澄の横を通り過ぎる瞬間、
俺の視界に俺を横目で見ながら口元で小さく手を合わせる香澄が映った。
――やられた
そう思ったが、香澄のその表情に自然と笑みを零してしまう自分に呆れつつ、
そのブルーの傘に視線を落としながらレジへと向かった。
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