胸臆

7/20
前へ
/326ページ
次へ
俺が口にした瞬間 その場の空気が変わるを肌で感じた。 よく見ないと分からない位小さく息を呑んだ彼女は  口元を上げたまま「元気そうですよ」 と答える。 今思えば、彼女は俺に合わせてくれていたんだろう 当たり障りのない答えを言って、 この話は終えるつもりだったに違いない だからそれで良かったのに もう会わなくても 元気にしているならそれで良かったのに 俺はなんて馬鹿なんだろう それ以上を聞いたら自分が苦しむなんて、 この時は考えもせず ただ思った事が口をついて出てしまっていた。 「……まだ 連絡取ってる?   今どうしてる……?」 ずっと目を逸らし続けていた『香澄』という存在 その名前を口に出来たことが 長い時間をかかったけど、もう瘡蓋になった証拠だと なんの根拠もない確信を持ってしまった。 一気に夕帆ちゃんの顔色が変わる。 迷った様なその表情に、俺は直感で  マズイ と悟った。 別の話題を持ち出そうと口を開きかけた時、 風の音に混じった彼女の声が耳に届く。 「この前 久しぶりに連絡がありました  ――――香澄ちゃん…、もうすぐ結婚するそうです」
/326ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1235人が本棚に入れています
本棚に追加