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「西園寺さんは…
……まだ、好きなんですね」
俯いている俺には
彼女の表情はわからない
だけど、小さく耳に届いた言葉は俺の心の中に深く落ちる。
それには答えず一瞬瞼を閉じると、
ゆっくりと顔を上げた。
俺を見つめるその表情
思えばいつも、
彼女はその表情を浮かべていたような気がする。
そしてその眼差しを受けとめることが出来ない俺は、
いつも目を逸らしてしまう。
何年も経って俺も変わったはずだったのに、
どうしても彼女の目を見返すことが出来なかった。
彼女も俺から視線を外し、
消え入りそうな声で「すみません」と口にする。
それは何を示唆しているのか
俺に告げてしまったことに対する罪悪感か
……他の何かなのかはわからない
「………もう戻らないと…、
お時間取らせました」
「……こっちこそごめんね、…またね」
眉尻を下げて薄く笑う彼女は小さく頭を下げ、俺の横を通り過ぎる。
少しして階段を降りる靴音が聞こえ、
しばらくしてそれも聞こえなくなると俺は空を仰いだ。
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