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…そう、
いないけど 今はいらない
……というか
彼女なんて、こんな俺じゃ作れない
笑みを浮かべたままビールを口にする俺に、
女子社員たちはその理由を聞こうと更に詰め寄る。
その好奇の目を一身に受けて、俺は手に持ったグラスをテーブルに置き
もう一度薄い笑みを浮かべて視線を上げた。
なんでかなんて、答えは一つしかない
「俺に、忘れられない人がいるから」
ポツリと独り言のように呟く俺に、
腕のシャツを掴もうとしていた子の手がピタリと止まる。
今まで騒いでいた声が嘘のように静まり返り、
視線だけが俺に集まった。
―――忘れられない
…そう、どうしても忘れるなんて出来なかった。
そう言った自分の言葉は、
まるで誰か別の人が話したように俺の耳に届く。
それはどこか遠くから自分を見ているような 不思議な感覚だった。
「結婚しちゃったんだけどね、その子」
他の誰でもない、俺自身に呟いたその一言は
俺の心に深く落ちて染みる。
(―――あぁ、そうか………)
この時、
俺はやっと悟れたのかもしれない
もう香澄は俺の隣には戻らないんだ と
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