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そう漏れ出た言葉を
まさか佐川が聞いているとは思わなかった。
通路の隅に俺を引き摺り込んで、何かと思えば、
「…さっきの、なんで話した?」
少し怒ったような、責めるようなコイツは
腕を組んでただ俺を見つめる。
そのいつもと違う表情に驚きつつも、
コイツなりに俺を心配してくれているんだと気付いた。
「…誰かに言えば
自分を客観的に見れるでしょ」
言いながら フッと小さく息が漏れる。
俺自身、さっき口にしてそう気付いたばかりのくせに、
そんなことはおくびにも出さず、言葉を続けた。
「いーんだよ
香澄のこと、無理に忘れたくはないけど、
前に進みたくないワケじゃないから」
それはカラ笑いを浮かべてでも、自分自身に言い聞かせた言葉だった。
(前に進みたくない訳じゃない…… か )
自分で口にしたこの言葉が胸に降りたとき、
俺は初めて長い間真ん中にあった心の枷が外れたような気がした。
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